演題:「あしたのテレビ」
    (株)テレビ宮崎 東京支社編成業務部長  
 大山 真一 氏
     
(1985年度 文学部広報メディア学科 卒業)

 講演講師紹介:坂代一郎氏(現OB会副会長)(1983年 政治経済学部経済学科 卒業)
 
 大山さんは自分が4年の時に彼が1年で入ってきた。彼は宮崎出身です。現役時代は副委員長だったと言うことですが、あとは話の中で自己紹介をされるというので、さっそくご講演をいただこうと思います。よろしくお願い致します。

大山真一さん

 皆さんこんにちは。
1985年度広報メディア卒業の大山真一です。本日はOB会総会にお呼びいただきましたので、少々お時間を頂戴してお話させていただきます。諸先輩が沢山いらっしゃるなか僭越ですがよろしくお願い致します。
 簡単な自己紹介ですが、私は宮崎県都城市の出身で、大学には
1982年に入学しまして、学科は広報メディアでした。もともと放送に興味があって入学しましたので、すぐ放送研究部に入部しています。

 (スライドを見ながら昔をふりかえると)当時から部室は1号館塔屋
3階で、(写真のように)扉は当時は重い鉄の扉でした。
今はステンレスの扉になっていますね。当時の放研の活動は、モニター会や学園祭での番組発表をメインにしトーク番組などを作っていました。当時は部室内に主調整室や金魚鉢(スタジオ)のブースがあって、ここで番組を作っていました。消防法の関係で部屋の中にこんな物を作っちゃダメと言われ、現在は部室内には何もないと聞いています。
  私が大学
3年の建学祭の時だったと思いますが、ビデオを使った番組を作ったことを覚えています。当時は1号館の教室にステージとか調整ブースを作ってやっていたのが、懐かしい想い出です。
  
1986年に大学を卒業し、運良く地元のテレビ宮崎に採用されました。学生時代、私の就職活動としては、どうしてもテレビ局に入りたかったということもあり、マスコミ受験の対策セミナーなどに沢山参加していました。また、採用についての情報収集も積極的に行っていました。今はインターネットでそうした情報も集めやすいのですが、当時は求人票が大学に来る、もしくは電話で自分で問い合わせる方法しかなかったので、受験できた会社は少なかったように思います。

  
テレビ宮崎は我が国唯一の「3局クロス局」
  
  入社後の私の職歴ですが、大半は営業デスクと編成をやってきました。
営業デスクのなかでもスポットデスクを主に担当していました。民間放送ですから営業部隊がコマーシャルの販売をしております。スポットCMというものがありますが、それを営業がクライアントから受けてきますと、スポットデスクは、その発注金額と諸条件によって流す場所を決めていくのが仕事になります。つまり営業管理の業務です。CMの入る時間というのが限られていているので、効率よくその中にしっかり埋めていくという民放の売り上げを左右する大事な仕事です。編成については皆様お分かりかと思いますが、日々の放送のタイムテーブルをチェックして、どの時間に、どういう番組を流すかを決めていくのが主な仕事です。こうした営業デスクとか、編成を長くやっておりましたので、大きな出来事の特番もいろいろ関わってきました。古くは昭和天皇が崩御された時
24時間以上CMなしで放送されたことや、湾岸戦争、阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件、9・11同時多発テロ、最近では3・11
日本大震災など、こうした放送業界でも非常に大きな出来事での特別番組に裏の方で関わっておりました。これらのことだけでも話せば1時間でも足りないほどです。
  さて、私が勤務するテレビ宮崎のことを説明しますと、開局は
1970年で、今年で45周年を迎えております。もっとも大きな特徴は、日本で唯一「3局クロス局」であるということです。日本のテレビ局は東京のキー局のどこかに属しているか、東京MXテレビのような独立局かに大別されます。テレビ宮崎はフジテレビ、日本テレビ、テレビ朝日と3つのキー局に属しいる3局クロス局です。タイムテーブルをご覧いただきますと、朝は「めざましテレビ」(フジ)、お昼前は「ANNニュース(テレ朝)」、夕方「スーパーニュース(フジ)」、そして23:00から「News ZERO」(日テレ)というように、3系列のニュース番組を放送しています。
また、ゴールデンタイムの番組をみても、フジテレビ、日本テレビ、テレビ朝日の番組が入り乱れているのがわかると思いま
す。
  このような編成ですので、日々いろいろな調整ごとがありまして、視聴者から見て「なんだこれ?」ということがよくあります。たとえば、
20131029日(火)の日本シリーズ第3戦巨人×楽天(日本テレビ)の時の対応ですが、われわれは“階段編成”と呼ぶ、かなり複雑な編成を組むことになりました。今のタイムテーブルでは通常「News ZERO」(日テレ)は23時からの放送ですが、火曜日は22時から「警察庁捜査1課9係」(テレ朝)を放送。その前は「発見!なるほどレストラン」(フジ・関西テレビ)を放送しています。そうなると「News ZERO」前にわが局では放送していない野球中継があるケースでは、延長されると「News ZERO」の時間はどんどん繰り下がっていきます。そのため、わが局では23時から「News ZERO」を流したくても、番組はやって来ない訳です。したがって、繰り下がって空いた時間を、ほかの番組で埋め合わせする必要があり、延長分数に応じた複雑な組み合わせをしなければならないことになります。場合によっては翌朝の番組編成に影響が及ぶほど複雑になることがあります。

“テレビ離れ”は進む?

 さてテレビの現状について、まずは視聴率の変化からお話しします。
 視聴率の調査方法は皆さんご存じでしょうか?関東だと無作為に抽出された
600世帯を対象に、ビデオリサーチが調査していて毎日調査結果が出ています。
視聴率は世帯の視聴率であって、個人の視聴率ではありません。
さて、総視聴率(
HUT)〔※1〕の2004年と2014年の比較でみると、この10年間で3.1ポイント下がっているというデータがあります。総視聴率のなかで「その他」視聴率と呼ばれる数字があって、これは地上波以外のBSテレビ、ケーブルテレビ、CSテレビを指しますが、こちらは10年前と比べると2倍になっており、2.5ポイントが5ポイントになっています。特に地デジに完全移行してから、急激に伸びていますが、これは薄型テレビになってBSチューナーが標準装備になったことが大きな要因になっているものと思われます。それからビデオ機器のさらなる普及で、タイムシフトと呼ばれる視聴形態が、ここ数年非常に伸びていることがいえます。さきほど総視聴率が減ったという話をしましたが、タイムシフトの数値を含めていくと、テレビに向き合う時間というのは、あまり変わっていないかも知れないですが、テレビの視聴形態が徐々に変わりつつあるということです。
 テレビ以外のメディアごとの利用構造の変化を世代ごとに見ると、
1020代でテレビ離れが進んでいるといわれますが、特に男性においてテレビよりもインターネット又はSNSに多くの時間をとられているという傾向が見られます。ここにおられる現役の皆さんはどうですか?また別の調査では、リアルタイムでテレビを見る人が、タイムシフトで視聴するという方向に変わりつつあるというデータがあります。もともとテレビを見る世代であった、いわゆるテレビ好きであるということには変わりはないのですが、この中で「両方とも見ていない」という世代が4%ほど増えていることに注目しなければなりません。特に10代の男性においては、「テレビを見ない」というのが9%増加しているというデータがあります。やはり若い世代においては、テレビ離れが進んでいるのかなと思います。また、テレビの保有台数の変化では、29歳以下では90.3%ということで、ここまで落ちているということです。これでいえることは、もともとテレビの好きな人は相変わらずテレビ好きでということで、見方は変化してきているが、ちゃんと見てくれている。ただし10代、20代の人たちではテレビを見ない人が増えてきているということです。
 テレビ以外でも時間を消費しているというものにインターネット、SNSなどをみているという人が増えています。単身世帯ではテレビが
91.6%、パソコンは44.4%、携帯・スマホは83.2%ということで、パソコンは意外に普及していないですが、テレビ以外のデバイスも段々増えて来てるいということです。少子高齢化の時代といわれていますが、これからの世帯変化の予測は、今後は単身世帯が増えるとみられ、先ほど説明した、10代、20代のテレビ離れということと関連づけて考えると、テレビ業界にとっては大きな問題と受け止めなければなりません。年齢層が高いほどテレビを見ていただいていますが、今テレビを見ない10代、20代の人たちは3040代になってもテレビを見ないまま、年代が上がっていくということにならないか。つまり今のうちに対策を取っておかないと、テレビはじり貧になってしまうのではないかと心配されます。

 〔※1〕総視聴率(HUT)とは・・・調査対象となる世帯全体で、どのくらいの世帯がテレビ放送を放送と同時(リアルタイム視聴)
 に視聴していたのかという割合をいいます。

NHK、民放キー局が力を入れ始めた“動画配信サービス”


 今までの“放送”は、いい換えれば“送りっ放なし”というサービスでした。地上波においてはどうすることも出来ません。スマホ、タブレットを活用したマルチデバイス化であるとか、テレビとインターネットをつなぐスマートテレビ、それからタイムシフトサービス、4K、8Kということがありますが、テレビを中心にこれからいろいろな動きが出てきます。その中で現在、在京キー局が一番力を入れているのは、動画配信サービスです。これについてはNHKが先行して動き始めましたが、
2014年を動画配信元年として、在京キー局が動き出しました。なかでも日本テレビが一番力を入れていますが、テレビ局が主導を握るという意味合いから、
Huluを買収したというのが記憶に新しいところです。こうした番組のマルチユース、すなわち一度作った放送番組をいろいろなところで見てもらう環境を作るという形に力をいれています。民放連も動画配信に着目しておりまして、今年秋には在京5局の動画配信のポータルサイトがスタートします。こうして民放もいろいろな取り組みが進められています。一口に動画配信といっても、有料であるか無料であるか、自社で行うか他社のサービスを利用するかさまざまです。
テレビ番組を無料で配信する目的というのは、地上波で見逃した番組をネット配信で見てもらって、次は地上波で見て下さいね、という施策です。これについてはほとんど自社のサービスとして行っています。有料配信の場合は、放送外収入を目的としています。自社で配信する場合と、配信事業者で配信する場合と
2つありますが、課金の方法も月額であったり、番組単位であったりします。配信業者としてはHuluであるとか、yahoo関連の
GYAOなどがありますが、今秋にはアメリカから「Net flix」というのが上陸してきます。キー局各社は、この「
Net flix」がどのような動きをするか大変注目していて、その対策がいろいろ検討されているようです。
 これらの配信は、パソコン、タブレット、スマホが中心で、一部テレビでの配信もありますが、これらのサービスで一番注目したいのは、たとえばドラマとかの“見逃し配信サービス”です。この1月から在京キー局が視聴率低下を防ぐため、リアルタイムシフトへの回避促進、視聴環境の変化への対応、違法動画の流通抑止、新規の広告ビジネスの開拓などの目的で、各社取り組んでおります。この4月期は日本テレビがドラマを中心に
15番組、フジテレビが8番組、それぞれ放送終了後から次の放送が流れるまでの1週間、配信をしています。これはタダで見られるサービスです。これらについてはわれわれ地方局もいろいろな意味で注目しています。
 テレビは報道機関でもあり娯楽を提供しているところです。地方のテレビ局は
9割はキー局制作の番組を放送しているわけですが、普段は地域のニュースとか話題を発信し、緊急時は災害報道を発信するといういう重要な役割を担っているわけです。そんな中ライフスタイルの変化であるとか、価値観の多様化で、テレビに対する意識、見られ方が変わってきています。今後テレビ業界も大きな変革が起こると思いますが、先ほどのテレビ番組のネット配信が当たり前になっていった場合、視聴者がリアルタイムで番組をみるかどうか?個人的にも疑問視せざるをえません。つまり、いつでも見られるなら、リアルタイムで見なくてもいいや、となるのではないかというのが少々怖い感じがします。そもそもこれまでのテレビ放送は、時間に縛られたサービスです。あらかじめ決められた時間に放送される番組を、みんなが見て、その情報を共有するというサービスですが、タイムシフトが当たり前になり、自分で見る時間を調整出来る時代になってきました。ただインターネットの世界で見ても、やはり話題の中心は相変わらずテレビが中心なのかなと思います。若い人たちのテレビに対する考え方を聞いていくということも大事なことです。今日集まった皆さんもそうした目でこれからのテレビ業界を見てもらいたいと思います。
 ひとまず本日準備したお話しはここまでとして、皆様からのご質問、ご意見など頂戴したいと思います。

《 質 疑 応 答 》

Q: 小城
 最近災害が多く発生していますが、テレビ宮崎では災害報道で、どんな体制で臨んでおられるのでしょうか。

A: 大山
 テレビ宮崎としてもかなり敏感に反応し、常時意識しています。最近集中豪雨が各地で発生していますが、もし警報が発せられればスーパーで伝えたりしますが、災害が拡大する恐れがあったり、避難勧告が出たりした場合は、
L字スーパーという、画面のなかL字型の表示画面に、交通機関の情報、避難勧告の情報など、新しい情報をどんどん更新しながらお伝えしています。
また、普段から災害情報に関する訓練もよくやっておりまして、九州の中で南九州3県のフジテレビ系列の局が共同で、緊急時の対応を半年に
回ぐらい訓練をしています。またわが社はフジ以外も、クロス局ということもありますので、テレ朝、日テレとの共同訓練も行っています。

Q: 岡本
 宮崎県は民放が2局だったと思いますが、民放が2局しかない現状で、クロスで放送できる番組も絞られてくると思いますが、視聴者からリクエストなどもあると思いますが、番組を流す基準とか、どういう編成を組むか、その目安というか、基準があれば教えていただきたいと思います。

A: 大山
 ご指摘の通り宮崎の民放は2局です。タイムテーブルを見ていただいたとおり、クロス局ということで、それぞれのキー局と番組を流す「約束」をした時間があります。
ゴールデンタイムを中心に決まったキー局の番組を流すことになっており、「約束」のない時間帯では独自に番組をチョイスして流しています。もちろん自社制作もありますが、全体のなかで1割ほどです。チョイスについては、視聴者からのリクエストもありますし、他局の視聴率など諸々の状況を勘案してチョイスし、タイムテーブルに反映させていきます。


Q: 中村
 タイムテーブルを見ると、笑点は土曜
17:00〜となっていますが、関東では日曜17:30〜なので、テレビ宮崎の方が先にやっているのかな?と思いますが、本チャンより遅れて放送しているのか、あるいは先に放送しているのかを教えて下さい。

A: 大山
 いわゆる先出しはないです。すべて何日か遅れでやっています。自分が本社で編成デスクをやっていた時に気にしていたことは、季節感がずれてしまうことがあって、1,2週間ぐらいであればまだ良いのですが、1,2ヶ月遅れになってくると大分季節感を損なうことになります。初夏の頃に雪が降っているなどということは具合が悪いので、それは気にしておりました。現在は大分そこを詰めてやっているはずです。

Q: 佐藤(貴)
 プロ野球で巨人が宮崎でキャンプをしていますが、タイムテーブルを見ると、野球中継がないようです。最近は日テレも
BSでやっていますが、これはやはり視聴率がとれないという判断なのでしょうか?それとも他の要因があるのでしょうか。

A: 大山
 おっしゃるとおり視聴率が悪くなってきました。最近では10%をとるなんてことが無くなりました。それが一番大きな要因だと思います。何で視聴率がとれなくなったか? 私は野球が好きなので、よく見ている方ですが、地上波だと
19時から始まって、試合が続いていても、放送時間を延長もせずに21時には終わってしまうということですが、BSだと最初から最後までやってくれるしもう地上波じゃなくてもいいじゃないか、と思われているのではないかと思います。
 一方で球場に行けば、沢山の人が来場していて、球場の新記録が出たりということは相変わらずあるわけで、野球人気が無くなったということではないと思います。地上波のサービスとして、野球のニーズがなくなったのだと思います。地上波でもマルチチャンネルみたいなものがあれば、見てくれるかもしれないですが・・・・・

司会:
 そろそろ時間になりました。大山さんには大変興味深いお話を、どうも有難うございました。

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