演題:「放送局の最近の情勢」
    東京メトロポリタンテレビジョン
技術局 技術部 部長   
 鈴木 淳一 氏
     
(1975年 工学部通信工学科 卒業)

 講演講師紹介:坂代一郎氏(現OB会副会長)(1983年 政治経済学部経済学科 卒業)
 
 講師のご紹介をさせていただきます、坂代と申します。
 今日講演をしていただきます鈴木淳一君。当時は名前で呼ぶより“スズイチ”とアダ名で呼んでいまし
た。彼が入部した頃、鈴木が
3人くらいいたので、それぞれアダナで呼んでいたわけです。私は彼の2
先輩で、
3年の時彼は放研に入ってきたのですが、彼は後輩と思えない、今日も姿を見て話を聞けば雰
囲気はわかってもらえると思いますが、今日も久しぶりに会って、その辺は当時からあまり変わっており
ません。
 85年度、工学部通信工学科卒業ということで、前顧問の富山先生もよく知っているというお話でした。
で、講師紹介をするので、何かエピソードでも教えてよ、といったら、「全部自分で話するからいいです」
ということですので、私はここで引かせていただいて、鈴木君の講演をお聞きいただきたいと思います。
では鈴木君よろしくお願い致します。

 《 講  演 》

 ただいまご紹介にあずかりました鈴木と申します。よろしくお願い致します。
 実は私は昨日まで場所を勘違いしておりまして、てっきり高輪だと思っていまして、
よく見たら代々木と書いてありました。
私は通信工学科で、私の
2年下ぐらいまで、実は代々木の学籍だったのです。
代々木には授業が何科目かあって何回か来たことはあるのですが、もう行き方を全く
忘れていまして、恥ずかしながらあらためて調べて来ました。ある意味なつかしい気が
致します。

○ 東京メトロポリタンテレビジョンとは

 私は今東京メトロポリタンテレビジョン、東京MXテレビというところにおります。
 どういう会社かというと、今日はタイムテーブルをお持ちしましたが、いわば東京にあ
 るローカル局です。同じ種類のものとしてはテレビ神奈川とか、千葉テレビとかテレビ
 埼玉とか、そういうところと同じですが、MXテレビは東京都域をエリアとするローカル
 局になります。東京
23区と多摩地域、遠いところでは伊豆諸島、はるか父島までが
 放送区域になります。ちなみに父島ってどれぐらい遠いところかというと、東京から直
 線距離で
1,000キロ先になります。グアム島までが直線距離で2,000キロ離れてい
 ます。
 というようなところにあります。そこでどうやってテレビ放送を見ているかというと、
 東京スカイツリ−から出た電波は、伊豆諸島沿いに放送波中継といいまして島伝
 いにリレーをして八丈島まで送り、そこから先は海底ケーブルで約
5600キロぐらい
 あるかな、父島まで送っています。父島でまた電波に変換して各家庭で視聴していただく訳です。
 現在ではMXはじめキー各局、NHKなど地上波各局がリアルタイムで見られるようになっています。父島でリアルタイムに見
 られるようにというのは、今から
10年前ぐらいですが、私がMXテレビ入社して2年目ぐらいの時にリアルタイムで見られる
 ようになりました。それまでは放送したものをビデオテープで運んで放送していました。リアルタイムに見られるようになった
 時、父島から生放送をやるというので、私も父島まで行きました。船で
30時間ほどかかるのですが、中継車を運んで行って
 生放送をやったのです。生放送ですので電波は衛星を使って父島から東京まで送られ、放送されました。人口も少なくてとて
 もきれいなところで、是非皆さんにも行って見てもらいたいなと思います。
 今でも船で
28時間ちょっとかかるので少し遠いのですが、考えようでは時間がかかるから面白いのではないかと思います。

  MXテレビで私が今なにをやっているかというと、技術局というところで、その中でもカメラマンとかスイッチャーなどは制作
 技術といいますが、それと電波を出す仕事で送信分野というのがありますが、私は送出という仕事を担当しています。
 MXテレビはほぼ
24時間365日、放送を休止するのは日曜日の夜の2時間半だけです。それを除いてはいつも終日放送
 でやっています。絶えず放送を送り出す人、それを監視する人がいます。私はその放送の送出部分、マスターという部屋が
 あって、そこの担当をやっています。MXテレビは小さいところで、あまり人もいませんので、送出の素材と順番はプログラ
 ミングをしているところは放送運行といいますが、それも兼務でやっています。放送は事故がなくて当たり前、事故がないと
 いうのは評価にならないわけです、事故があれば大きなマイナスになりますが。そういう意味では縁の下の力持ち的なところ
 で仕事をしています。あとは時々制作技術分野の仕事も今年春まで少しやっていまして、東京スカイツリーの麓に小さいスタ
 ジオがありますが、土曜日の昼の11時から1時間、そこから生放送をやっていました。番組は今もやってはいますが、今は
 本社からやるようになりましたので、スカイツリーからの生中継ではなくなりましたが、その番組も担当していました。
  スカイツリーのスタジオには、放送機材が置いてないので、その日は、朝
4時半に起きて6時にはスタジオに入って、11
 からの生放送が出来るように放送機材をセットして、リハーサルをやり本番を迎えるというのを、オープン以来今年の
3月末
 までやっていました。技術の仕事として現場に出るというのは、とても楽しいことで、お客様の反応も見られるし、やはり現場
 に出てガチャガチャやっているというのは、性分としては一番合っています。
 今の仕事はどちらかというとデスクワークということですが、それでも社内に居ると常にいろいろなことがあるので、ほとんど
 机に座っていることはありません。やはり現場の仕事というのは楽しいなと思いながらやってました。

○ 後発・小規模放送局だから出来たこと・・・
 MXテレビは、東京では一番新しい放送局で、開局は

1995
年で間もなく20周年を迎えようとしています。
最初はお台場の先の方の青海というところに局舎があり
ました。とても辺鄙なところで、私が局舎を作りに行ってい
る頃は、ゆりかもめも開通していなかった頃で、品川の裏
の方から、建築現場にひとを運ぶためのマイクロバスが
運行されていたので、朝早くにそれに乗って、当時建設現
場だった局舎に行って放送設備を作るというところから始
まりました。建築現場は、朝はラジオ体操から始まりまして
作業員の人たちと一緒にやって、仕事にはいるということ
を暫くやりました。
 ちょっと毛色の変わった放送局だったので、当時は視て
いる人も少なくて、一日
12時間ニュースをやるとか、あと
はビデオジャーナリストといいまして、自分で撮影してき
て、自分で編集して、それを一つの番組としてながれる、
というようなことをやっていたのですが、今でこそ小さいカ
メラで撮ってきてニュースを作るということは珍しくありませ
んが、当時はそんなことをやっている放送局などは無く、
 小さいカメラを持って取材などしていると、素人は出て行け、などといわれることもあって、当時の報道の人は大分苦労したよ うです。

  あとは地元密着ということで、
112時間ニュースというのですが、いくら東京といえども12時間分のニュースがある訳が 
 無く、
12時間分のニュースを作るというのは、大変な労力になるので、ほとんどはリピートになるのですが、なかなか東京都
 域のニュースだけでやっていくのは難しいです。今ではだいぶ普通の局のニュース番組になりました。
 例えば東京都知事が石原さんの頃は、石原さんはとても押し出しが強く,定例記者会見を生中継でやっていたのですが、とて
 もテレビ映りの良い、押しのきく人で、中継をやっていても面白い人だと思います。記者会見の生中継は他の局でもやってい
 ましたが、質問する記者を撮したというのは、多分MXが初めてだったと思います。あと変わったことを始めたのは、韓流ドラ
 マを始めたというのは多分NHKより速く、おそらく日本で初めて始めたのではないかと思います。そのあとの台湾ドラマもそう
 ですね。「花よりダンゴ」とかそういうのをやっていました。要はMXテレビは視聴率も低いし、あまり見ている人も少なかったと
 いうところを逆手にとって、他の局よりも大胆なことが出来たということですね。今でも十分変わったことをやっていて、やはり
 収入もいっぱい得なければならないので、テレショップが多かったりするのですが、あと多いのが深夜のアニメ番組ですね。
 あとはスポーツ中継で、東京を地元とする局なので、ジャイアンツは日本テレビがやり、スワローズはフジテレビがバックにお
 りまして、MXが中継をやりたいといってもやらせてもらえないので、われわれが始めたのは地方の球団で、ヤフオクドームで
 やっている福岡ダイエーホークス主催の試合です。これは球団の協力も得ながら、年間で約
70試合のほぼ全部を中継して
 います。一方、地方球団にしてみると、東京で試合の中継があるというのは、収入とかいろいろな面で違いがあるようです。
 何年か前にテスト的に楽天の試合を
30試合ほどやりました。変わったところでは、昨年まで女子プロ野球というのがありまし
 て、これは
1年間だけだったので、今年はやっていません。女子プロ野球は全国あちこち地方球場を回っておりまして、それ
 に全部ついて行くと私も東京にいられないことになってしまいますので、主だった球場しか行けませんが、私が技術担当とし
 て、地方球場から衛星を使って生中継するための回線接続とか、そういうことを主な仕事としてやっていました。
 MXの出ている頃には余り有名ではなかったのが、この頃有名になったというタレントが沢山いまして、代表格は多分マツコ・
 デラックスさんだと思います。MXで出ていた頃はまだ誰も知らない頃でした。
 平井堅さんも売れてない頃番組をもっていました。あとお笑いコンビの
TKOさんもうちで番組をもっていました。ブレイクする
 前のキンタロー、全然売れてなかったころスカイツリーでやっていた番組に出ていただいて、数ヶ月後に突如ヒットしたという
 のがあります。
 MXに出ていて他のキー局でブレイクするという人が多いです。
 というのはMXテレビはパイロット局のようなところがあって、キー局
 の人が、とてもよく見ているのです。MXに出ていて、使えそうだとか
 、面白そうだとかいうと、キー局が引っこ抜いていくのです。

 新しい局ですので手探りでみんなで番組を作っているということで
 す。でも20年も経つと、ようやく熟れてきたかなというところです。
 
 夜9時からやっている「バラ色ダンディー」という番組が、中島知 
 子の復帰第一声がこの番組でして、当時いろいろ話題になったも
 のですから、週刊誌の記者が押し寄せたりとか、すごいことになっ
 たりしましたけど。こういう変わった方もMXだと出やすいということ
 があると思います。こうしたいろいろな人が出た多彩な番組を作っ
 ているというのがMXテレビです。是非一度ご覧になって下さい。
 小難しいものから柔らかいものまで取りそろえております。

○ MXは常に、新しい放送方式で送出の先駈け

 私が仕事をしている技術部という所
も、開局の時から変わったことをやっ
ておりまして、今でこそ高画質というの
は一般的になっていますが、放送を始めた頃はEDTV
2(ワイドクリアビジョン)という変わった方式
でやっておりまして、国内では日本テレビとMXでしかやっていなかった放送方式です。このころか
ら今の
16:9という横長の画面ですね。まだ4:3の画面のテレビが一般的な頃ですので、この方
式で放送を始めると上下に黒帯の部分がついて、これをレターボックスというのですが、当時は
競馬放送をやっていまして、競馬のトラックなどは横長ですから、中継の画面は都合が良い上に、
ちょっと高画質化できるというところで、かなり長い時間放送しておりました。日本テレビはこれで
何をやっていたかというと映画ですね。後発で始めた当社の方がはるかに放送時間は長かったと
いうことです。
 
2003年に東京タワーから送信する地上波デジタル放送の試験放送というのが始まりました。
地デジというのは
2003年から始めましたので、もう10年以上たっているのですね。その頃は
MXもとにかく参加しようということで、参加すべきかどうか、社内では議論になりました。



 しかし、HD(high definition)で流すようなソフトはないが、競馬ではやれるかなということはありまして、
NHKはじめ他のキー
 局はやっているのに、MXだけ参加しないとうのは損だろう、“なんちゃって
HD” (標準画質(standard definition television)
 のものをup convertしたHD)でも良いから、ともかく電波を出して、“MXでもやっているのだ”ということをアピールしようよとい
 うことで、最初はインチキくさい地上波デジタルを始めました。あまりお金がなかった放送局でしたので、地上波デジタルは始
 まったのですが、局内にはHDの放送機材がほとんどないという状態で、
アップコンバート(up convert)する機械とモニ
 ターしかないというすごい状態で始めました。それでも各局と一緒に
HDの電波を出すことができたので、少しは認知をしてい
 ただくことができたのかなと思います。その当時
24時間インチキ地デジをやることをいい続けたので「淳ちゃん方式」といわ
 れまして、今でもそういう人がいますが、でもあの当時やはり早く初めてよかったと思っています。
 また新しいことといえば「データ放送」といって、皆さんはテレビでは余り見ないかも知れませんが、MXではこれも一所懸命
 やっておりまして、いろいろ出しております。ハイブリッドキャストというのもやっていまして、普通データ放送というのは、放送
 波に乗せてデータも送るのに対し、バイブリッドキャストというのは、特定の番組が見たいという時に、そのデータはインター
 ネット網から出てくるというもので、テレビがインターネットに接続されていないときには出ないという方式です。NHKが一所懸
 命やっていますが、われわれも選挙の特番の時など、この方式で開票速報をながしたりしています。
 われわれの規模の局としてはいち早く始めました。

  現在日本ではMXだけしかやっていないのですが、今年の4月から始めたマルチ編成というのをやっています。地デジの特
 徴は@ハイビジョン放送が出来ます。Aマルチ編成が出来ます。というものですが、このマルチ編成というのは1つの電波で
 2つの放送が出来るというものです。これまでこの放送はほとんど行われていませんでした。つい最近はNHKや他の民放局
 でも一部の時間帯で始めていますが、当社は“
24時間マルチ編成”でやっています。ただ普通の局と違うのは、普通マルチ
 編成をやると、両方とも標準画質(SD)になってしまいます。MXの場合は、片側はHD、もう片側はSDでやっています。関西の
 放送局でテレビ大阪とか、よみうりテレビで実験的に数時間やっていますが
24時間放送をやっているのはMXテレビだけで
 す。この部分は送出部門ということになりますので、主に私の部門が担当しています。
  もともとハイビジョンの電波は道が広い訳ではないので、ハイビジョンのようにデータ量が多い物は、送出する時にデータを
 圧縮(エンコード)して、それをテレビで受信した時、伸長(デコード)して視ているのですが、この処理のため送出してから視
 られるまで、大体
3秒くらい遅れるのです。そのためNHKの時報は昔秒針が出ていましたが、いまは出さなくなりました。
 今はラジオの時報だけですね。圧縮技術が進んだので
HDが送れるようになったということですが、皆さんのご家庭のテレビ
 をよくご覧になると、激しい動きの部分はモザイクがかかったように見える部分があります。今は
HDの実力が100%出ていま
 せん。局で撮しているHDというのはもっともっときれいです。伝送路が細いので、今のが限界というのと、圧縮する技術は
 MPEGという方式を使っていますので、これの限界なのです。
 今新しくあるような
H.264というのがあって、それを使えば変わると思うのですが、それを使うには、全家庭のテレビを買い換
 えなければならないので、家庭での負担などいろいろ考えると、しばらくは今のMPEGを中心として方式で地上波デジタルが
 行われると思います。ただ私自身は見ていて、日本のISDB−Tという方式があるのですが、画質といい、移動体での対応と
 いい、おそらくこれが世界でやっているどの方式よりも、優れているように思います。世界的に見ると南米とか一部の外国で
 は、この方式を使っているところがあります。
 

 
○ これからの放送は高画質“4K”の時代?

 ここから先は未来の話になるのですが、
61日は電波の日でありまして、
今年の電波の日には何をやったかといいますと、皆さんも聞かれたことがある
と思いますが「
4k」、今のHDよりもはるかに高画質な放送を2020年の東京オ
リンピックまでになんとか始めたいねと。今、実はスカパーの衛星波を使って
試験放送が
61日から始まっています。当然かなりのデータ量ですので、道
が太くないと伝送できないのです。今地上波で伝送しようとすると、おそらく相
当数のチャンネルを使わないと伝送ができませんので、そこで衛星波というこ
とで、スカパーと
4kを推進しようとする業界団体(次世代放送推進フォーラム
(NexTV-F))が共同で放送しています。大学の通信工学科で私とほぼ同じ歳
の人がスカパーにいまして、
4kの試験放送は放研の卒業生がやっています。
先日別の用事で会ってお話しましたが、「まだまだだなー」という感じがあるよ
うです。


 ところで、この会場にいらっしゃる皆さんのお家のテレビ、
40インチ以上のテレビで見ているよ、という人はどのくらいいます
 か(会場内席からまばらに手が挙がる)
30インチ位の方は?(会場内席から半分強の手が挙がる)やはり結構多いですね。
 一人暮らししている人は
20インチ台とか、無いという方はいますか(会場内席からまばらに手が挙がる)あっ、いますねやは
 り。
  地デジが始まったときに、テレビはインチ・
1万円といわれていました。60インチだったら60万円ぐらいだよと。
 今はインチ・
5千円以下でしょうね。きっと。大型テレビといっても薄くなったし、安くなってきたら爆発的に普及するのではない
 かと思っていたのです。ところが日本では大型テレビは普及しないのではないか?この会場で40インチ以上のテレビをお持
 ちの方は少ないですね。
4Kというのは大型テレビでないとあまり意味がないのです。24インチテレビで4kを見てもなんの違
 いも感じないと思います。

 4k
をやるには、皆さんが大型テレビを買う必要性があると思うのです。それも50インチ以上ぐらい。
 でやっと
4kってきれいだな、すごいなと感じられるかなと思います。先ほどいったように、電波に乗せて送ろうとすると、やは
 りエンコード、デコードが必要になってくるので、そこで画像が少し劣化するかも知れない。ならば
4kを送る伝送路で、圧縮、
 伸長しないハイビジョンを送った方が画像がきれいかもしれない。
 もう一つ皆さんに聞いてみたいのですが、すごい高画質になったとして、こんなのを見てみたいというものがあるのですかね
 ?よく私のところにメーカーの人が
4kどうですか、どうですか、と売り込みに来るのですが、そこで皆さん一般視聴者として、
 4k
で何をみたいというのですか、というと「う〜ん・・・?」というのです。今家電量販店の店頭などで4kのテスト画像見せてい
 ますが、スポーツであったり、世界遺産であったりですね。はっきりいってバラエティーを
4kで見るニーズはあるのですかね。
 日本の放送局はある時期まで技術先行でいろいろなものが開発されるのは、技術立国としての日本の立場とかいろいろあ
 るので、技術先行で発展するのはとても良いことだとおもいます。
  では
4kが何か役に立つことがあるのか、といえば私は有ると思います。例えば医学分野だったりとか、4kで胃カメラが出
 来て、あの解像度が出るようになると、手術部位がよく見えるようになる。今の解像度では部位を細密に見るため近くまで寄
 らなければならないため、腹腔鏡手術などをする際に、どうしても器具が当たってしまうそうなんです。
4kだと引いた位置で
 見られるので、手術器具と当たらない、部位がよく見えるので手術がやりやすくなるとか、余計なところまで切り取らなくてよく
 なるとか、いろいろな効果が期待出来るそうです。そのほか遠隔診療などには良いかも知れませんね。肌の色つやや顔色わ
 かるというと診断にも効果的ですね。映画にも良いですね。映画映写システムのIMAXとか
3Dもそうですが、大型映像にした
 ときの解像度が格段に上がります。あと,街角でいろいろなところにありますデジタルサイネージ(電子看板)とか、そうしたも
 のに4kは向いているかも知れません。
 そこで
4kはテレビ放送なのか?というと、限りなく個人的な意見ですが4k(のメリットを生かすメディアとして)は放送ではな
 いのではないかと思います。
NHKではさらにその上の8kというのをやっているそうですが、人間の生理的にはそれが限界
 のようですね。それ以上きれいにしても分からないということで、私は
4kでも分からないのですが・・・これからどうなるのか、
 というところは注目しています。
  実は今のハイビジョンは
2Kで次が4k。その間に3という数字がありますが、33Dというのもあったのですが、3Dも一時
 大騒ぎしていました。毎年秋に
inter BEE(国際放送機器展)というのが幕張で開かれるのですが、一昨年までは3Dだらけ
 だったのが、昨年は
3という数字は一切消えていて、4という数字に置き換わりました。私は4という数字もいつかこうなってし
 まうのではないかという気がちょっとしています。下世話な話になりますが、あまりいうと怒られるかもしれませんが、いわゆ
 る
AVですね、VHSがいっぱいありましたね。DVDもいっぱいありました。ところがダビングがなかなかし難くなったからかも
 しれませんが、きれいになったのだからブルーレイがいっぱい出てきても良さそうなものですが、あまり出ていません。
 ブルーレイはどのくらい普及しているのかというと、持っている人は多いのですが、さかんにブルーレイで録画をしているかと
 いうと、多分
DVD程ではないと思います。ブルーレイの再生だけの機械だと1万円以下で売っています。なのに意外と世の
 中に普及していないなと思います。
DVDは生き残っています。MXでも、過去に放送されたものを欲しいリクエストされて、配
 るのはほとんど
DVDです。ブルーレイで要求されることはほとんどありません。高画質化というのも曲がり角に来ているのか
 も知れません。この前、先のスカパーの人と話した時に、「今の若い人は高画質など興味がないんだよ。いつもは
padみたい
 な小さい画面でみている。大画面で高画質でなんていっているのは、僕らの年齢ぐらいから上だよ、今は高画質というのは、
 あまり求められていないかもしれない」といっていました。たとえば音楽にしてもヘッドホーンで聴いている人が多いですね。
 大きなスピーカーを置いて、大きな音で聞くなどということはほとんど無い。高画質、高音質が人に感動を与えるかというと、
 必ずしもそうではないですね。昔の白黒の特撮もので、私は、怪獣ブースカというのが好きで、最近怪獣ブースカの
DVDボッ
 クスというのを衝動買いしてしまいまして、白黒のじゃらじゃらの画です。でも見ていて面白いとかいうのは、画質とかではな
 いですね。昔ラジオドラマなどやっていましたが、ラジオドラマは音質が良くないと感動しないかといえば、中波のラジオで
 いっぱいやっていました。聞いても面白いと思いましたね。
 そういうところからいうと、画質・音質とかいうことと、人が感動するということと、ちょっと違うと思うのです。スカパーの映画担
 当の人の話ですが「昔のフランシス・コッポラの映画や黒沢明の映画なんか、ほとんど色なんか使っていないんだよね」とい
 うのです。それでも大作は出来るし、確かに黒沢のカラー映画でも昔のは暗かったですよね。放送局のシステムというのもい
 ろいろな意味で考えるところにきているのかも知れません。それは今の自分の仕事の中で感じたことです。

○ 部活の番組制作も、是非“プロ”をめざして!!

  今日ここに来るに当たって、現役の人がいっぱい来るというので、ホームページから聞ける番組というのを聞いてきました。
 僕らが作っていたのと大分違うなと思いました。一つは、やはり“番組”を作って欲しいのです。ただしゃべっているのではなく
 て、きちんと企画、構成をして番組を作って欲しいのです。やはりプロのまねをして欲しいのです。
 ここにいる
OBの皆さんとか、僕らもそうですけど、ラジオドラマとか作りました。一所懸命。人が殴られる音を作るのに腹を
 殴ったり、ベルトをパチッとやったり、肉屋で肉を買ってきたりとか、いろいろなことをやって番組を作ったと思います。どれだ
 けプロに近づけるか、というのがとても大事だと思います。皆さんがよく作るのはラジオの番組だと思いますけど、テレビとか
 ラジオの番組づくりというのは、自分たちが満足するのではなく、やはりラジオとかテレビの向こう側にいる人が何を思い、ど
 のように自分たちのものを聞いてくれるのか、ということをしっかり考えながら、向こう側の人に訴えるということを考えて作っ
 てもらいたいと思います。

○ いつも新しいことにチャレンジしようよ

  現役の皆さんで、放送局に就職したいな、と思う人は結構いますか??この頃、放送局志望という人が意外と少ないので
 す。場所を選ばなければ、結構穴場ですよ。是非トライアルしてみて下さい。放送局に入りたいという人はそれなりに志があ
 ると思いますが、以前、大学の先生が学生を何人連れて会社見学に来て、その時私は学生達に「就職の志望とはどういう所
 なの?」と聞いたら、そのうち何人かは「マスコミ系です」といういい方をしたのです。マスコミ系というのはないだろう!!と思いま
 したね。
 マスコミ系といえば、新聞、雑誌、業界紙から幅広い範囲をいうのだ、そんな思いでマスコミ系にはいれるのか?といったら、
 「う〜ん・・」といっていましたが、やはりこの仕事に就きたいと思うなら、会社までピンポイントでいえるような、どこに入って何
 をやりたい、制作をやりたいとか、技術をやりたいとか、制作をやりたいなら番組を作りたいのか、報道をやりたいのか、明
 確なビジョンを持ってやってもらいたいと思います。私も放送局に就職できるなんて思っていませんでした。大学を出てすぐは
 、放送局系列の設備を作る会社で、いわゆるエンジニアリング、自分で設計して、自分で施工して、最後は自分で運用すると
 いうところでやっていましたが、縁あって途中で試験を受けて転職しました。入るときに重視されたのは職務経歴書です。
 何を作った、募集要項にはA4で1枚と書いてありましたが、分厚い冊子にして出したら、捨てられずに最後まで残っていまし
 た。最後の役員面接の時に役員の机の上に載っていました。やはり、自分はこれだけのことが出来る、何ができるかという
 ことを訴えて、それをしっかり伝えることが大事です。だから部活動でもやりながら、本物に近づくということをもっと大事にし
 て欲しいと思います。
 私も放研にいたとき、建学祭で使う調光器を造ったり、われわれの頃はミキサーから何から全部手で作りました。特殊効果
 の機械などもです。FM放送をやるのも、送信機は私が作りました。一緒に作ってくれた友人は、放送研究部ではありません
 が、今は日本無線というところで、本当の送信機を作っています。その彼は海事衛星を作っています。やはり目指すというこ
 とはそういうことだと思います。学校の勉強というのは意外と役に立たないと思います。役に立たないですよね??きっと。や
 はり部活などを通じて培ってきたものは、考え方、経験は必ずどこかで役に立ちます。
 ぜひ、プロが見てびっくりするような物を作ってほしい。これだったら出来るよね!!ではなく。今の人たちは独創力も有るので出
 来ると思います。ソチのオリンピックで
1718歳の子たちがいっぱい金メダルをとっているのをみて、私はそう思いました。
 僕らで出来ないような発想も有るし、度胸もあるし。僕らの放研にいた時代と比べて、今はツールもいっぱいあるし、安いし、
 とても面白いと思います。僕らが放研をやっていた時代は、塔屋の部室からミニFM放送をやっていました。無茶なことをやっ
 たのは、電リク、電話リクエストをやりました。当時部室には電話回線など有りませんでした。
 で、アパート暮らしをしている奴の電話番号をラジオでいっちゃうのです。電話がかかってくるじゃないですか、でも部室には
 電話がないから、どんなリクエストが来ているか分からないわけです。そこで使ったのはアマチュア無線機で、「こんなリクエ
 ストが来たよ」というのですが、来ても必ずしもそこにリクエスト曲が有るわけではないですよね。そうすると、今度はその放送
 を使って、持っている奴はすぐ持ってこい、と部員に呼びかけるわけです。するとどこからか曲が集まってくるわけです。あと
 は、当時携帯電話も何もない頃でしたから、休講情報を流そうということで、しかしやろうとしても情報が集められなかったの
 で、結局これは出来なかったですが、そんな無茶なことをやったり考えたりしました。今なら携帯電話で容易にできることも、
 その頃ツールがなかった訳ですが、今なら楽に出来ます。
 要はそういう発想をもって欲しいのです。発想出来るかどうかということが、他の人を追い抜けるかどうかという事です。追い
 抜くかどうかということではなくて、発想を持てるということは楽しいことだと思います。それを部活動で是非やってほしいと思
 います。私が放研にいて、周りにも先輩や仲間がいて、そういう発想を持てたのが、今の自分にとても役に立っています。あ
 とは、先輩とうまくつきあうことです。自分たちの同世代ではなく、一世代や二世代前の先輩とうまく付き合う事です。先輩方
 はとてもいっぱい知識をもっています。これを利用しない手はありません。先輩は後輩から“何とかお願いします”といわれた
 ら嬉しいのです。せっかくこういう機会があるのですから。是非独創的なことをやって頑張って欲しいと思います。ということで
 時間がきてしまいました。ひとまず話を終わりたいと思います。

< 質 疑 応 答 >

 Q 3年の織戸健太郎です。私は放送局に興味がありまして、現在ラジオ関係に
    少し携わっておりまして、その人たちにどのように就職したかなど、いろいろ
    聞いているのですが、こういった所に入る人は、やはり最初はそれに関連し
    た会社から上がっていくという人達がいると思うのですが・・・

 A それはほとんどないです。放送局は放送局です。たとえば東京のキー局です
    と、正社員といわれる人達は大体1,000人前後ぐらいです。あの建物の中で
    働いているのは、大体4,000から5,000人くらいです。そのほとんどはいわゆる
    関連会社といわれるところの社員です。例えば日テレで技術系の関連会社
    日テレ・テクニカル・リソーシズ(通称:
NiTRo)というところです。制作業務を
    やっているところは日テレ・アックスオンという会社です。
    美術系をやっているところは、日本テレビアートというところ、イベント系は日テレ・イベンツという会社があります。
    そこで、これらの関連会社から日本テレビに上がるかといえば、ゼロではないかもしれませんが、少ないと思います。
    だから日本テレビに入りたい人は日本テレビを受けた方が良いと思います。ただ、現場の仕事をやりたいカメラマンを
    やってみたいとか、制作をやってみたいといったら、局に行くよりも関連会社に行った方がいいかもしれません。ただし
    覚悟して行った方が良いです。大変です。関連会社になると、ここも放送局と同じで正社員が少ないのです。
    他は契約社員といわれる人達です。最近いわれる非正規社員といわれる人達で、有期雇用契約といわれるものです。
    立場的に安定したところにいたいというなら、大きいところに行ったほうが良い。ただ、やりたいことをやるというのは腕
    の世界になってくるので、また話は違います。ただ、MXのような小さいところであれば何でも出来るかも知れません。
    私は好きなことを何でもやっています。そのかわり自分がとりついてやったことは、最後まで責任をもってやらないと駄目
    です。受けるのであれば小さいところの方が面白いと思いますよ。地方局とか。


 Q 68年通信の海津です。番組を作る場合、数字とかいろいろ気にしながら作ると思うのですが、その中身というのはどう
    いう・・・

   視聴率調査では、日本では一番大きなビデオリサーチという会社が大体母数300ぐらいでとっているのですが、これ
    がどれだけ当てになるかということです。今、テレビにインターネットがささっていれば、調べようと思えば調べられると思
    います。例えば従業員が10,000人ぐらいもいる会社は、自分たちのところで、従業員が何をみているかを視聴率調査す
    るそうなんです。すると母数がはるかに大きいので、そちらの方が正確なんだそうです。だから、テレビもそういう意味で
    は厳しいと思います。ただし、娯楽の王様であることは確かです。でも最近、数字数字といい出しました。だけど制作費
    がそんなに無いなかで、数字を気にした物を作るのは大変です。大体、東京のキー局では年間1,000億近くの制作費を
    使います。MXテレビは「・・・億円」程度でして、要はブリキの戦車で戦えといっても、なかなかうまく戦えないということで
    す。たまには変わったテレビ局の放送も是非ご覧になってください。


                                 《 拍   手 》
                                                                  = 了 =