Essay 

アイドホール(Eidophor)って何?
                                  1967年度卒業 工・通信  佐藤  一
 先日,橋本君と私,現役の学生とOB会の名簿の照合を行いました。現役の学生からも「卒業したOBへ
の連絡文書が戻ってくる量が非常に多い」とのことで,われわれの把握している情報と現役の把握してい
る情報を照合しました。今回の照合でお互いにかなり修正できましたが,このような作業はまだまだ数回
実施する必要があるとお互いに認識して第1回は終了しました。
その帰り,橋本君と二人で資料センターに伺っていろいろとお話しさせていただく機会を得ました。
その時,初期のころの湘南校舎の話題になり,そのお話の中で「アイドホール」のことが話題に出ました。
「アイドホールって,2号館のことをいうのでは?」今までそう思っていました。などなど・・・
でも,そういえば改めて「アイドホール」のことを説明されたわけでもなく,いろいろ口伝えに「アイドホール」
という言葉だけが独り歩きしたような気がします。
時代が過ぎていくと以外にも正確な話が十分に伝わっていないことを改めて感じました。とはいうものの,
私も卒業して大学に残らなければ全く同じだったろうと思います。
そこで,今回は表題についての話題を取り上げたいと思います。その他にも放研にとっては2号館を中心
としたさまざまな行事でのお話しもあるのですが・・・その辺の話はまた改めて・・・。
アイドホール原理図

アイドホールは正式には「Eidophor Projector」といいます。
アイドホールの語源はギリシャ語でその意味は像の運搬者と
言う意味。スイスのGretag社とオランダのPhilips社で開発され
ました。
テレビの映像を映画のように大型スクリーンへ拡大投影する
特殊な大型受像機。
光源はキセノンランプ(3,000ルーメン)を使っていて,本体の
電源は220Vを使用しています。
(東海大学の2号館でこれを採用した理由はこの光源の明る
さが重要なポイントとなりました。何故なら,2号館の調整室か
らスクリーンまでの投射距離は約50mあったからです。)

 研究開発者によりアイドホールの開発及び製造権を獲得し新会社が設立,戦後になってフィリップス社と
チバ社が提携し1959年に「アイドホール」会社の名の元に新会社が設立されました。
本来,「アイドホール」とは機内に使用されている特殊な油の膜につけられた名称をいいますが,装置全体
を指して「アイドホール」と呼んでいるのが一般的なようです。
 アイドホールの原理はシュリーレン光学を利用していて,光源から出た光はコールドミラーを通って棒状の
シュリーレン格子(バーミラーと言っている)に導かれ,そこで反射された光は奥の凹面鏡に入射。
この凹面鏡は回転していて,入射した光を乱反射させるために表面に油(アイドホール油と言う)
アイドホール

を流し,入射した光をバーミラーの間を通過するように設計されています。
バーミラーを通過した光は対物レンズ(映写レンズに相当)を通って
スクリーンに到達。(上図参照)
また,走査電子ビームには真空が必要なことから電子銃と凹面鏡は真空容器
に収納されていて,アイドホールは電源を入れてからこの部分が完全な真空に
なるまで約1時間を必要とします。また,維持管理には専門的な知識が必要と
なって,誰でもが使えるものではなかったのです。
当時は主に放送局で使用されていて,学校では唯一東海大学で使用されてい
ました。東海大学によるとこのアイドホールの実動作時間は約9,400時間にも
及び,過去に前例のない動作時間を誇っています。
そんなこともあって,アイドホール=東海大学という評価さえ生まれたほどでし
た。昭和39年に湘南で初めて稼働したアイドホールも17年の長きにわたり大
学の現代文明論を中心として教育に貢献し,その任を終えたと聞いています。
私にとっては大変感慨深いものがあります。

右の写真は東海大学2号館調整室に設置されていたアイドホール本体です。
大きさは高さ:1.88m,幅:0.7m,奥行:1.26m,重さ:340kgあります。
当時,映写機と言えば16mm映写機を指すことが多く,テレビジョンの映像を映
写するという概念は一般的ではありませんでした。
 「科学万博つくば’85」が開催されるまでは現在のようにTV画像を大きくスクリーンに投影する目的の装置は
なく,ビデオプロジェクターという言葉も「つくば万博」の開催された頃から使われるようになりました。

 最近は明るく,安価なビデオプロジェクターや液晶プロジェクターが市販されて,性能も良くなり,電源を入れ
てすぐに使用できるので,学校教育ではほとんどがこれらのものを使用していましたが,パソコンを使った授
業が多くなってきた関係もあって現在では液晶プロジェクターが主流となっています。
なお,現在,2号館の大ホールもアイドホールに代わってビデオプロジェクターが使われているそうです。

ここで使用した写真や図は東海大学教務部技術課発行の「東海大学における17年間のアイドホールプロジェ
クター使用状況報告」より使わせていただきました。